初恋の味は苦い

苦いチョコアイス

契約関係の書類がまとまらず、時計は20時を回る。

定時で帰ってた頃が懐かしい。

優希が荷物をまとめて私の背後を通りかかる。

「お先するね」
「うん、お疲れ様!」
「りつも無理しないようにね、病み上がりなんだから」
「もうすっかり治ったよ」

あの発熱騒動から1週間以上は過ぎていた。

名古屋以来、祥慈も私も接点を控えていて、私たちは何もないただの同僚になっている。

「あれ」と背後で優希の声がした。

「どうした?」
「これ」

優希の手には充電ケーブルに繋がれた誰かの業務用スマホ。

「ここにさっきまで多田さん座ってなかったっけ」

うちの会社は席が自由なので普通はそんなに覚えてないけど、優希の記憶は合っていた。

その席には確かに19時近くまで祥慈が座っていた。

「多田さんの連絡先分からないなあ」

優希がスマホを手に少し戸惑っている。

私は分かってるけど、ほんの少しの間、つい躊躇してしまった。
その時、私の机上でプライベート用のスマホが振動する。

ヴーヴーというバイブ音と共に画面いっぱいに表示されたのは「多田祥慈」。

焦るようにそっと電話に出る。

「りっちゃん?お疲れ様です!今どこいる?」
「今、まだ会社いた」
「良かったー!そこにさ、俺多分業務用のスマホ置き忘れてきたっぽくて・・・」

私はつい優希を見ると、優希が少し不思議そうな表情で私を見返す。

< 53 / 68 >

この作品をシェア

pagetop