初恋の味は苦い
「途中まで届けてくれないでしょうか、俺明日直行直帰で名古屋出張の予定だったんだよね」
「別にいいけど」
「うちまで来たらアイスあるよ」

アイス。それで釣るなんて子どもか。

「分かった、最寄り駅まで着いたらとりあえず連絡するよ」
「まじで?じゃあうち来たら漫画でも貸すわ」
「いらない、またここ出る時連絡するよ」
「ありがとう、まじでありがとう!」

電話の向こうで彼はしきりに感謝していた。

優希はなんとなく察知したようで、私のところへ充電ケーブルごとスマホを持ってくる。

「多田さんでしょ」

私はなぜか少し躊躇った後、軽く頷くと、一気に優希の表情がニヤリと笑った。

「彼女から奪略?」
「違うよ」
「名古屋で意気投合しちゃった?」
「そういうんじゃないよ、ほんとに」

優希の手からスマホと充電ケーブルを受け取ると、優希はやっと帰れるといった表情を作った。

「じゃ、お願いしますね」とわざとらしく笑顔を向け、「そっかー、そうなのかー」と大きな独り言を言いながら姿を消した。

最近は全然接点なかったのに。
というより、敢えてお互い避けてたように思うんだけど。

私はその後15分ほど作業を続け、会社を出た。

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