初恋の味は苦い
祥慈の住む最寄り駅まで2駅。電車に揺られれば一瞬で着く。
会社から駅までの方が遠く感じるくらいだ。

駅に着くと、人がドッと降りた。

祥慈から「北口のところで待ってるよ」と連絡があった。

少しだけ胸が高鳴るのはなんなんだろう。
私はここでスマホだけ渡して引き返せばいい。

改札口を抜けると、よれたロンT姿の祥慈がいた。また前髪が下がっている。シャワー後だ。

祥慈は私を見つけるとすぐ笑顔になった。

「ごめんね、ありがとう、良かったまじで」

駆け寄りながらそう言ってきたので、私はリュックからスマホを出す。

祥慈はスマホを受け取ろうとして、そのまま勢い良く引っ張ってきた。手を離す隙がなかった私は思わず引っ張られるがままに祥慈に一歩近づく。

「うちにアイスあるけど、どうすんの」

そう言ってニッと笑う。

「だからさ、そういうことはもう重々反省したんじゃないの、私たち」
「じゃあいいです、アイスあるよって言っちゃったから言っただけだし」
「アイスに釣られて来てるわけじゃないもん」

そう言って見上げると、祥慈が私を見下ろす。

そして何も言わずに私の空いた手を取る。
不本意だけど嬉しいのは確か。

なんでこの人はいつも思わせぶりなことばかりするんだろう。
私がきっと好きなのを知ってて。

単純にキープってやつなんだろうな。

私にはその手を振り切ることができなかった。
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