初恋の味は苦い
駅から大通りを10分ほど歩いたところにある築20年以上経過したような大きなマンション。

祥慈は慣れた足取りで入っていき、私はその後を追う。

階段をカンカンと上がり、3階に着くと右へ折れた。302。

ガチャガチャと鍵を開け、ドアが開かれる。

「汚いよ」と前置きで祥慈が笑う。

靴が2足だけ置かれた玄関、トイレとバスルームと思われる並んだドア、その先にベッドとテレビとローテーブルだけが置かれただけの寂しい部屋があった。

汚いというよりは、引っ越しばかりの生活に慣れた部屋みたいだ。必要最低限の物しかない。

「そこのクローゼット開けたら雪崩が起きるから」

祥慈は冷凍庫からアイスを取り出しながら言った。

「詰め込んだの?」
「そうそう、りっちゃん来てもいいように」

ふと、ここにちょっと前まで彼女が通ってたのかという生々しい推測が頭をよぎる。

「はい、どっちがいい?」とチョコとバニラのアイスを見せてきたから、私はチョコを取る。

プラスチックのスプーンも受け取り、私は祥慈の隣に座ってアイスを食べ始めた。

「ここにいつから住んでんの」
「この部屋は9月直前に来たばっか」

ふうん、と部屋を見回した後、隣の祥慈と目が合う。

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