初恋の味は苦い
頭では分かっていても、私はただ頭が及ばないようなところでずっと祥慈を求めていたんだと思う。

初めて見た高1の春から。

「りっちゃん、ごめん、俺は久しぶりにりっちゃんと会ったばかりで気持ちが追いついてない」

静かに頷く。

「かわいくて、エッチもしたいけど、正直それ以上の好きにはならない」

私はまた頷いた。

「分かった、帰る」

静かに立ち上がって、祥慈を跨いでいた足を抜く。床に置きっぱなしだった上着を羽織ってる私に、後ろから祥慈が声を掛ける。

「同じ会社じゃなかったら、適当に『付き合おう』って言って、今やってたと思うけど、りっちゃんはそういう風にはできない」

私はリュックを背負うと、玄関に向かう。

「スマホありがとう、りっちゃんの好意に甘えてた、ごめん」

そう背後から言われながらも、私は今祥慈に見せる顔がなくてそのままパンプスに足を突っ込む。息を吐いたら、涙が溢れそうだった。

ドアを開ける前に振り向いて聞いた。

「高校の時も?」
「え?」
「高校の時も、そういう気持ちで付き合ってたの?」
「あの時は普通に、かわいいと好きと付き合いたいがイコールだったんだよ、楽しかったよ」

どうやら、10年経ってしまった今の彼は、かわいいと好きと付き合いたいはイコールではないらしい。

10年前で止まったままの私には分からなかった。

「ありがと」

涙が溢れないように気をつけて、私は笑顔を作って玄関から出た。
祥慈に笑顔はなかった。

口の中で、チョコの苦味だけがほのかに残る。
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