初恋の味は苦い
ミーティングが終わったのを見計らったのか、加賀優希が誰かの新婚旅行土産を持って私のところまで来た。

「はい、もう食べた?」
「まだ、『牧場の月』?」
「まあまあ、よくある味」

そう言いながら、私の隣の空いてる席に座る。

優希は同期で、今人事周りの仕事をしている。最近は辞めてく人が多い割に優秀な人材が取れないのが悩み。

「あ、そうそう」と思い出したように優希が私を見る。

「牧場の月」は、思ったほどミルクの味がしないただのクリームがカステラ生地の中に入っていた。どこが牧場の月。

「今度9月にりつと同じ高校出身の人、入ってくるよ」
「え、うそ、何歳?」
「28かな、学年は一個上の代」

ドキリとした。

一気に頭の中が、あの殺風景な男子高校生の部屋のベッドの上になる。

いやいや、あり得ない。
私は牧場の月を少し大きな塊のまま、ゴクリと飲み込む。

優希は周りを気にするように少し顔を近づけた。
そして声のボリュームをかなり落として言った。

「多田って人知ってる?」

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