初恋の味は苦い
「すみません、本当にすみませんでした」

静かなフロアに珍しく声が響き渡ってきた。祥慈の声だ。なぜか営業部の保科さんに頭を下げている。

祥慈と保科さんはダイマツ精機関係だろう、とすぐにピンときた。

「契約はもう結んでるんだよね」
「そうですね」
「それで向こうはなんて言ってんの」
「なる早でお願いしたい、と」
「それできんの」
「・・・」

祥慈が完全に責められてる形となっている。契約に問題があったようだ。

「前倒しってことだよね、それできんのって聞いてんの」
「・・・やります」
「多田くんの意志じゃなくて、スケジュール的に可能かどうかで聞いてんの」
「スケジュールも含めて、間に合わせます」

遠い私の席にまで保科さんの深いため息が聞こえてきた。

契約まで結びつけた内容と、実際技術的に求められる内容に差異があったようだ。話を聞いた時点では、前倒しで稼働しないと間に合わないらしい。

< 61 / 68 >

この作品をシェア

pagetop