初恋の味は苦い
「じゃあ、ちゃんと会って言って」
「はい、会って言います、じゃあそうだなー、今どこいんの」
「駅に向かってる途中だけど」

その駅の脇にある花壇の縁に座っている。

「よかった、俺今東京来てんだよね」
「え!?」
「ダイマツの支社で打ち合わせあって、今その帰りなんだけど」

私は急いで辺りを見回す。
いるわけもない。
電話の向こうで話は続く。

「俺はりっちゃんのこと好きだよ」
「それ前も聞いたよ、でも付き合うとかじゃないって」
「うん、また別れたら俺今の会社でやってく自信もなくて避けてたっていうのはある。友達のままが一番いいんじゃないかなって思ってた」
「うん」
「俺さ、りっちゃんに釣り合うようないい男じゃないんだけど」

この人は何を言ってるんだろう。
気付けば私のレインブーツの周りを半ば溶けた雪が浸していて、つま先は冷え切っていた。

「これからはちゃんとするから、これから頑張るから、ちゃんと幸せにするから、付き合おう」

駅の方を見ると、信号を渡ってやっと駅に到着したばかりの祥慈が私を見つけ笑っていた。

私が立ち上がると、言葉を交わす隙もなく抱きしめてきた。お互いコートとコートが押し潰される。

触れ合う頬と頬。

祥慈は私を抱きしめたまま何も言わず、スマホは通話状態のまま。

やっと頬と頬が離れ、お互いの顔を見つめ合う。

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