初恋の味は苦い
多田。

「ただ?」
「ただ。」

優希がまっすぐな目で見つめ返し、続けて言う。

「ただ、しょうじ、って人」

脳がプツッと音を立てて作動しなくなった。

知ってるも何も。

牧場の月が包まれていた、少しカステラ生地がこびり付いたフィルムをギュッと握りつぶす。

「あ、あー、うんうん」

私から出てきたのはそんな間抜けな反応だった。

「知ってる?」と少し驚きながら優希が私の目を見る。

「バレー部のリベロやってて、なんか知ってる知ってる」

ハハッと乾いた笑いが出た。
誤魔化すようにジャスミンティーを口に流す。

「どういう人?」
「あー、よく分からないや」
「そっかあ、そうだよねえ」
「でも、こんな地元近い人、私初めてだ」
「高校名見てハッとしたよ」

脳の上辺だけの会話をこなしながら、脳の中核部では臨時集会、緊急会議が始まる。

どうする!?

どうする、私!!!

あの、あの、あの多田祥慈が、この会社に入ってくる!?
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