インスタント・オカルトクラブ

インスタント・オカルトクラブ1

 新しい高校に転入して2週間が経ったが、俺の心は辞めたい気持ちでいっぱいだった。

 理由は単純にクラスに馴染めていないからだ。

 親の転勤に着いていくために引っ越すことになったのだが、手続きを終えて新たな高校に通う頃には既にクラス内にはグループが形成されていた。

 地元の中学から進学した連中が多いらしくてそのまま仲良しグループを作り、そこから溢れた余り物たちも小さなグループを作っていた。
 
 そもそも高2の、しかも進級してから結構な日付が経ってしまっていたからどうにもならなかった。

 一生懸命混ざろうとしたのだが、明るい髪が悪さしたのか、ヨソモノが嫌いなのか、俺のような異物が入れる場所は無かった。

 別にいじめとか受けてるわけじゃない……と思いたい。
 
 そうして校舎裏で一人寂しくパンを食べる悲しき男子高校生の俺が生まれたってわけ。

 
 
 
 
 校舎裏は生徒が誰一人としていない穴場。
 
 じめじめしているし、季節によっては虫や蛇が出てくるので近寄るもの好きが限られているってだけなんだけど。

 校内と区切る意味ならわかりやすく、防犯対策なら意識が酷く低めとしか思えない少し高めのフェンスを越えれば土手に出られるし、川だってすぐ傍、川を越えれば森だったりもする。

 ぎりぎり日が当たるポジションを獲得するため、意識が高いんだか低いんだかわからない俺より年配のフェンスを背もたれにして味気ないパンをかじる。

 校舎裏にいながら太陽を求める暗闇に住みながらも決して届かぬ光に手を伸ばす化け物みたいな悲しき心を誤魔化すために、今流行りのソシャゲでガチャを回す。

 目当てのキャラが手に入らなければ、陰干しされた負の心が更に倍となるのだが。

 今回のガチャが当たりなのだと知らせるかのように、スマホの画面いっぱいに特殊な演出が現れ、一人にやにやと笑みを浮かべていれば……。

「おー、いいの当たってんじゃん。オレもやってんよー、そのゲーム」

「ほぁっ!?」

 後ろ側、腰かけていたフェンスから唐突に声を掛けられ、驚いてスマホを放ってしまう。

「どしたどした。ガチャ当たったのがそんな嬉しかった?」

 振り向くと、真っ白な髪の小柄な少年が「わかる。凄くわかるよ」と笑った。

 少年がしゃがんでてもわかるくらい背が低い、というかいわゆるヤンキー座りしている分さらに小さく見える。
 
 中学生に見えるかもってくらいに小さい、というかどこか幼い。
 
 俺よりずっと背が小さくて、脇に抱えて走れそうだ。

 後輩だろうか。
 
「キミ、あれだろ。噂のテンコーセーだろ。オレは3年の月野、そっち行くから待っててな」
 
 そう言うとガシャンガシャンと音を立てながら高めのフェンスを登り始め、そして、3年の月野先輩とやらはフェンスの真上に至ると、ぴたりと動きを止めた。
 
 その視線はどこか遠くを見るようだった……というか、空を仰いでいる。
 
「……キミさ、人助けとか好きじゃない?」
 
「いや、そんなでも無いですね」
 
 空を見上げながら月野先輩がそう言うので正直に答える。
 
「そんなはずはない。オレの目は確かだよ。人助けが得意なオレの目は誤魔化せないぜ? キミは人助けが好きだ。無意識に電車で席とか譲るタイプと見た。そうだろう?」
 
「それも無いですね。譲るほど席が埋まってないし、満席でもジジババに譲らないです」
 
 調子悪そうな人とか、妊婦さんがいたら譲るよそりゃあ、わざわざ言わないけど。
 
 あとは子連れのママさんとかにも譲るね。
 
「オレも譲んないよ。うん、譲んない。じいばあは元気だからね。そもそも電車乗らんよね、連中は」
 
「人助け出来てないじゃないですか。節穴じゃん。自分を誤魔化す前に現実見てくださいよ」
 
 人助け得意とは一体。
 
 目にガラス玉でも入ってるのか?
 
「辛辣すぎない? 傷ついたよオレ。涙零れないように空見てるよ」
 
「だから空を見てるんですね。そろそろ昼休みも終わるんで教室戻りますね」
 
「……コーハイなんだからさ、センパイの言うことちょっと聞いてくれてもいいよね。チョーヨーのジョってやつ」
 
「うーん……」
 
「今なら人助けも出来てお得!」
 
「人助けは別に……」
 
 関係なくない?とも思いながらてきとーに返事しつつスマホを拾う。
 
 教室に戻ったら新しく引けたらキャラを育てて、午後の授業に隠れてポチポチしようかな。
 
「……わかった。ショージキに言うよ。降りられないから助けてくんない?」
 
 震える声で、月野先輩がそう言った。
 
 マジか、そんな木に登って降りられなくなった猫じゃないんだし、流石にからかってるんだろ。
 
 俺も相応にやり返してもいいはずだ。
 
 目にかかるくらいの髪を、撫でつけるように手でかき上げた後に両手を広げる。
 
「飛び込んできな。……クレバーに受け止めてやるよ」
 
 どや顔でそう言ってみる。
 
 先輩もさっきみたいに笑いながら冗談だと返してきて、それで二人で笑って平和的に終わり、と。
 
 そんなこともなく、先輩は返事もせずに落ちてきた。
 
 空から男の子が!
 
 家で飼ってる猫が胸に飛びついてくるのに似てるな、と思った。
 
 めっちゃ軽いし、ほかほかしてた。
 
 小学生かな?
 
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop