私の何がいけないんですか?
9.選ばなかったのは君だろう?
ハンネス様が優しく微笑む。感動で胸が大きく震えた。
今すぐ駆け寄りたい気持ちを抑え込み、こちらへ歩み寄るハンネス様をじっと待つ。胸がドキドキして、ソワソワして、落ち着かない。それは、すごくすごく長い数秒間だった。
「陛下、この度は私のワガママを叶えていただき、ありがとうございます」
「ワガママだなんてとんでもない。我が国にとっても素晴らしい話だ。エラは私にとって娘も同然。貴国と縁が結べるとは光栄の極み――――もちろん、エラの気持ち次第ではあるが」
陛下はそう言って目を細める。具体的な話の内容は分からずとも、期待に胸が躍る。ハンネス様は私に向かって跪くと、そっと手を握った。
「私は将来、エラ嬢を妃として迎え入れたいと思っています」
想像以上――――あまりの嬉しさに、目頭がグッと熱くなる。心臓が早鐘を打ち、全身が熱くて堪らない。喜びに身体が打ち震え、今にも飛び上がりそうな心地がした。
「出会ったばかりで変に思われるかもしれません。けれど私は――――俺は、初めて会ったその時から、あなたのことが好きでした。エラ嬢の側に居たい。君の笑顔が見たい。幸せにしたいと心から思いました」
ずっとずっと欲しかった言葉。こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった。ダンスに誘ってくださったあの時からずっと、ハンネス様は私に幸せをくださっている。失っていた自信や、希望を与えてくださっている。
この気持ちは絶対一生変わらない。ハンネス様以外の人は考えられない。
「もちろん、すぐに婚約とはいかないぞ。表向きは交換留学という形をとる。そこからお前は殿下と共に国を渡り、あちらで女官としての実績を残すのだ。他国の、それも一伯爵家の娘を妃に迎えるなど、俄かには考えづらいこと。恐らくは険しい道のりになるだろう。皆に祝福され、望まれる妃になる――――その覚悟が、お前にあるのか?」
父が尋ねる。私の行く末が心配なのだろう。
調べることを禁じられた時点で想像は付いていたけれど――――ハンネス様は王族だった。我が国の数倍の国土を誇る、隣国の王太子。そのミドルネームが“ハンネス”だった。陛下や両親の様子からも、我が国にとって、彼の国がどれ程重要なのかがよく分かる。
きっと、女官として実績を残す提案をしたのは両親だろう。すぐに婚約を結び、上手くいかなかった時の、我が国への影響を考えたのだ。
(覚悟……)
父の言葉を反芻する。不安が無いと言ったら嘘になる。国を離れること。女官として実績を残すこと。そもそも、私はハンネス様の妃に相応しいのだろうか――――。
そっとハンネス様を覗き見る。すると、彼はいつもの様に微笑んでいた。私のことを信じ、一ミリだって疑っていない。胸が燃えるように熱くなった。
「あります。私も、ハンネス様と共に生きて行きたいです」
言えば、ハンネス様は嬉しそうに微笑んだ。彼の笑顔は何度も見ている。何なら、出会ってから今まで、ずっと笑顔だ。
だけど今の彼は、これまでで一番幸せそうな表情をしている。嬉しくない筈がない。涙がポロポロと零れ落ちた。
今すぐ駆け寄りたい気持ちを抑え込み、こちらへ歩み寄るハンネス様をじっと待つ。胸がドキドキして、ソワソワして、落ち着かない。それは、すごくすごく長い数秒間だった。
「陛下、この度は私のワガママを叶えていただき、ありがとうございます」
「ワガママだなんてとんでもない。我が国にとっても素晴らしい話だ。エラは私にとって娘も同然。貴国と縁が結べるとは光栄の極み――――もちろん、エラの気持ち次第ではあるが」
陛下はそう言って目を細める。具体的な話の内容は分からずとも、期待に胸が躍る。ハンネス様は私に向かって跪くと、そっと手を握った。
「私は将来、エラ嬢を妃として迎え入れたいと思っています」
想像以上――――あまりの嬉しさに、目頭がグッと熱くなる。心臓が早鐘を打ち、全身が熱くて堪らない。喜びに身体が打ち震え、今にも飛び上がりそうな心地がした。
「出会ったばかりで変に思われるかもしれません。けれど私は――――俺は、初めて会ったその時から、あなたのことが好きでした。エラ嬢の側に居たい。君の笑顔が見たい。幸せにしたいと心から思いました」
ずっとずっと欲しかった言葉。こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった。ダンスに誘ってくださったあの時からずっと、ハンネス様は私に幸せをくださっている。失っていた自信や、希望を与えてくださっている。
この気持ちは絶対一生変わらない。ハンネス様以外の人は考えられない。
「もちろん、すぐに婚約とはいかないぞ。表向きは交換留学という形をとる。そこからお前は殿下と共に国を渡り、あちらで女官としての実績を残すのだ。他国の、それも一伯爵家の娘を妃に迎えるなど、俄かには考えづらいこと。恐らくは険しい道のりになるだろう。皆に祝福され、望まれる妃になる――――その覚悟が、お前にあるのか?」
父が尋ねる。私の行く末が心配なのだろう。
調べることを禁じられた時点で想像は付いていたけれど――――ハンネス様は王族だった。我が国の数倍の国土を誇る、隣国の王太子。そのミドルネームが“ハンネス”だった。陛下や両親の様子からも、我が国にとって、彼の国がどれ程重要なのかがよく分かる。
きっと、女官として実績を残す提案をしたのは両親だろう。すぐに婚約を結び、上手くいかなかった時の、我が国への影響を考えたのだ。
(覚悟……)
父の言葉を反芻する。不安が無いと言ったら嘘になる。国を離れること。女官として実績を残すこと。そもそも、私はハンネス様の妃に相応しいのだろうか――――。
そっとハンネス様を覗き見る。すると、彼はいつもの様に微笑んでいた。私のことを信じ、一ミリだって疑っていない。胸が燃えるように熱くなった。
「あります。私も、ハンネス様と共に生きて行きたいです」
言えば、ハンネス様は嬉しそうに微笑んだ。彼の笑顔は何度も見ている。何なら、出会ってから今まで、ずっと笑顔だ。
だけど今の彼は、これまでで一番幸せそうな表情をしている。嬉しくない筈がない。涙がポロポロと零れ落ちた。