私の何がいけないんですか?
「――――ヨナス様」
一体いつからそこに居たのだろう。ヨナス様は私のことを冷たく見下ろしている。背後には仰々しくも騎士を数人引き連れていた。普段ならばあり得ないことだ。
ヨナス様は私の手をグイッと引き、後ろ背に追いやった。
「困るな。エラは僕の大事な女官なんだ。許可なく誘ったりしないで欲しい」
掴まれたままの手首が痛い。身を乗り出そうとしたら、無言で睨まれ制止された。
「許可制ですか。ふむ……女官をデートに誘うのに許可が要るとは、驚きですね」
ハンネス様が微かに首を傾げる。ヨナス様の背後でブンブン首を横に振ると、彼は困ったように微笑んだ。
「――――では改めて。ヨナス殿下に、エラ嬢をデートに誘う許可を戴きたいのですが」
「断る」
ヨナス様が即答する。私を抱き寄せ、ハンネス様を睨むようにして。驚くやら腹が立つやらで、私はヨナス様の腕の中から急いで抜け出した。
「お待ちください、ヨナス様。私はハンネス様の申し出をお受けしたいと思っています。だって、折角お誘いいただいたんですよ?」
「誘っていただいた? エラを? 冗談だろう?」
嘲るような笑み。まるで『君を誘う人間なんてこの世に存在する筈がない』って言われているみたいだった。心がポキッと折れる。あまりにも悲しくて、思わず顔を背けた。
「エラは彼の素性を知っているの? 家格は? 領地は? 何も知らないだろう? そんな男と一緒に出掛けようっていうの? 僕のエラが? そんな軽率な行動、許される筈がないだろう?」
畳みかける様に口にされ、言い返す言葉が浮かばない。
少し前までは、ヨナス様に『僕のエラ』って言われる度に嬉しかった。彼の愛情を感じられて。ヨナス様のものになれた気がして。
だけど今は、何だか怖い。ヨナス様の瞳に狂気を感じて、足が小刻みに震えてしまう。
「それは……私が尋ねなかっただけだもの。聞けばハンネス様は教えて下さる筈で――」
「知らないままで良い。金輪際、会うことのない人間だ。何処かに出掛けたいなら、僕が連れて行ってあげるから」
そう言ってヨナス様は、騎士達に私を連れて行くよう命令する。有無を言わせぬ強硬な態度。ありがとうも、さようならも言わせて貰えそうにない。
(酷い)
こんな別れ方では、また会えたとしても、ハンネス様はもう、声を掛けてくれないかもしれない。笑い掛けてくれないかもしれない。そう思うと、悲しみに胸が塞がる。
『大丈夫だよ』
だけどその時、ハンネス様の唇が、そんな風に動くのが見えた。
柔らかな笑み。温かくて、優しくて、涙が浮かびそうになる。ハンネス様が言うと、安心する。本当に大丈夫な気がしてくる。
『また、すぐに会える――――会いに行くよ』
次回を約束する言葉。今度は絶対、社交辞令なんかじゃない。
コクリと大きく頷いて、私は騎士達の後に続いた。
一体いつからそこに居たのだろう。ヨナス様は私のことを冷たく見下ろしている。背後には仰々しくも騎士を数人引き連れていた。普段ならばあり得ないことだ。
ヨナス様は私の手をグイッと引き、後ろ背に追いやった。
「困るな。エラは僕の大事な女官なんだ。許可なく誘ったりしないで欲しい」
掴まれたままの手首が痛い。身を乗り出そうとしたら、無言で睨まれ制止された。
「許可制ですか。ふむ……女官をデートに誘うのに許可が要るとは、驚きですね」
ハンネス様が微かに首を傾げる。ヨナス様の背後でブンブン首を横に振ると、彼は困ったように微笑んだ。
「――――では改めて。ヨナス殿下に、エラ嬢をデートに誘う許可を戴きたいのですが」
「断る」
ヨナス様が即答する。私を抱き寄せ、ハンネス様を睨むようにして。驚くやら腹が立つやらで、私はヨナス様の腕の中から急いで抜け出した。
「お待ちください、ヨナス様。私はハンネス様の申し出をお受けしたいと思っています。だって、折角お誘いいただいたんですよ?」
「誘っていただいた? エラを? 冗談だろう?」
嘲るような笑み。まるで『君を誘う人間なんてこの世に存在する筈がない』って言われているみたいだった。心がポキッと折れる。あまりにも悲しくて、思わず顔を背けた。
「エラは彼の素性を知っているの? 家格は? 領地は? 何も知らないだろう? そんな男と一緒に出掛けようっていうの? 僕のエラが? そんな軽率な行動、許される筈がないだろう?」
畳みかける様に口にされ、言い返す言葉が浮かばない。
少し前までは、ヨナス様に『僕のエラ』って言われる度に嬉しかった。彼の愛情を感じられて。ヨナス様のものになれた気がして。
だけど今は、何だか怖い。ヨナス様の瞳に狂気を感じて、足が小刻みに震えてしまう。
「それは……私が尋ねなかっただけだもの。聞けばハンネス様は教えて下さる筈で――」
「知らないままで良い。金輪際、会うことのない人間だ。何処かに出掛けたいなら、僕が連れて行ってあげるから」
そう言ってヨナス様は、騎士達に私を連れて行くよう命令する。有無を言わせぬ強硬な態度。ありがとうも、さようならも言わせて貰えそうにない。
(酷い)
こんな別れ方では、また会えたとしても、ハンネス様はもう、声を掛けてくれないかもしれない。笑い掛けてくれないかもしれない。そう思うと、悲しみに胸が塞がる。
『大丈夫だよ』
だけどその時、ハンネス様の唇が、そんな風に動くのが見えた。
柔らかな笑み。温かくて、優しくて、涙が浮かびそうになる。ハンネス様が言うと、安心する。本当に大丈夫な気がしてくる。
『また、すぐに会える――――会いに行くよ』
次回を約束する言葉。今度は絶対、社交辞令なんかじゃない。
コクリと大きく頷いて、私は騎士達の後に続いた。