真面目すぎた僕たちは。

現在   伊藤蒼

「授業終わり!号令お願い」

あれから3年後、俺は教師になって、今は小学5年生の担任をしている。一昨日、ある生徒に「先生って彼女いるの?」と聞かれ、咄嗟に思い浮かんだのは梨生の顔だった。
それに先日暇な時間を使って、押し入れを整理していると梨生との写真や貰ったプレゼントなど、3年前に別れたのに取っておいているものが沢山あった。あの日々は、それだけ大切で忘れられないものなのだ。


別れた直後、俺は別れるという言葉を都合よく理解して、梨生が戻ってくると勘違いしていた。でも、そんなことは一切なかった。しばらくして、俺は梨生にちょくちょく連絡をするようになった。元気にしてる?とかご飯食べてる?とか。しつこいと思いつつも、やっぱり繋ぎ止めていたいという気持ちがあった。

後から聞いた話なのだが、詩音が離れたのは梨生が浮気を疑っていたからだということがわかった。詩音は俺に何度も謝罪した。だが、俺は別れを告げられた理由がわかり、少し安心した。誤解だったんだから、もう1度チャンスは訪れるはずだ。
時が解決するというのは嘘で、流れる時間と比例するように恋心は高まっていった。あの頃の俺たちは、恋愛に真面目すぎた。だから次は絶対に泣かせないようにする。ただ、それだけのこと。


「おーい。休憩終わったぞ」

今、俺は恋愛だけではなく、子供の成績指導や親へのフォローなど沢山のやるべきことがある。正直、辛くて辞めてしまいたいと思うこともある。それでも続けているのは、ここにいれば自分も成長できると思うからだ。




別れるとき梨生と1つ、約束をした。それは、梨生みたいな人を好きにならないこと。俺は心の中で否定していたが、梨生の表情を見て、口に出すことを止めた。梨生とはその後ずっと顔を合わせていないけれど、その日に作ったミサンガはまだ切れていない。これが切れたときに初めて、俺は自分の心に素直になれる。
次に会う時は、梨生に気持ちを伝えられますように。



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