結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 ソフィアは目を見開いてアルベルトを見つめた。記憶がないとは、どういうことなのか。ある時期というけれど、いつから、どこまで記憶を失くしているのだろうか。思わぬ告白にソフィアはことばを失うように息を止めた。

「当時、私が描いた絵の一つに、珊瑚色の髪をした女性がレース編みをしている絵がある」

 アルベルトは息を一つ吐くと、ソフィアの方を向いてはっきりと伝えた。

「どうやら私は、君をモデルにして絵を描いたようだ」
「それは、そうだけど……、アルベルト、もしかしてその時の記憶がないの?」
「正直に言うと、君のことを覚えていない。六年前にここで何をして、どう過ごしていたのか思い出せないんだ」

(アルベルトが、私のことを覚えていないだなんて。そんなことが——)

 思わず額に汗が一つ流れる。

「だったらどうして、私がモデルだとわかったの? この髪の色だって、全くないわけじゃないわ」
「君はさっきから私の名前を言っているけれど、私は普段は自分の本名を明かしていない。アルベルト、と名を呼んだのは、私と君が以前出会っていた何よりの証拠だ。そうだろう?」
「……っ!」

 確かにアルベルトはレッドロックス氏と会った時、自己紹介をしていなかった。名前を伝えるのは当たり前だと思っていたし、まさか本名を使っていないとは思わなかった。

「君には私の記憶を取り戻す手伝いをして貰いたい」
< 101 / 231 >

この作品をシェア

pagetop