結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
「そんなっ」

 ソフィアはアルベルトから聞く内容に戸惑いを覚えるけれど、記憶をなくしているのであれば、ソフィアのことを覚えていなくても辻褄があう。再会した今もどこか他人行儀なことも納得できた。

けれど本当にソフィアの記憶がないならば、このまま忘れていて欲しいとさえ思ってしまう。もう、お互いに違う道を歩いているのだから、今さら思い出したところでどうなるものでもない。

「でも、どうして六年前の記憶にこだわるの? 記憶がなくても、何も困らないでしょう?」
「……、問題は、ある。時々、当時のことを思い出したくて眠れなくなる。君にはわからないだろうが」

 アルベルトはいきなり苦虫をつぶしたような顔をした。その顔からは、記憶がないことがいかにも苦痛でしかないと物語っている。

「すみません、不躾なことをお聞きしました」
「いや、いい」

 アルベルトは目の前に用意された紅茶を一口飲むと、ソーサーの上にカップを置いた。ソフィアには不思議でならなかった。六年前の記憶がそれほど大切なのはどうしてなのだろうか。

 一時期の記憶がないとしても、彼は高位の貴族であるだけでなく、今や大きな会社を持ち普段から高級車に乗るほどの大富豪だ。ローズのように美しい妻を持ち、今頃はかわいい子どもも生まれているだろう。

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