結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 頭が回らなくなる。彼は、王都には美しい妻と子どもが待っているだろうに、彼はこんなことができる人だったのだろうか——。

「あのっ」
「頼む、何か思い出せそうなんだ。しばらく、しばらくこのままでいさせてくれ……」

 か細い声でアルベルトが囁く。たくましい両腕で抱き留められたソフィアは身動きすらできなかった。ソフィアは息を止めて彼の様子を伺う。何を思い出そうとしているのか。本当は何も思い出して欲しくないのに、どうしたらいいのだろう。

「僕は……」

 かつてのように、自分のことを僕、と呼び始めたアルベルトは涙で潤んだ瞳を持ち上げた。

「僕は……、ソフィア、僕は君のことを忘れているのか?」
「アルベルト……」

 アルベルトはかつてと同じ熱っぽい瞳でソフィアを見つめた。ソフィアの心臓が、またドクン、と強く鼓動する。

(止めて、もうこれ以上私のことを思い出さないで……)

 そう思う一方で、アルベルトの紺碧の瞳が揺れているのを見るとソフィアのこころも揺れてしまう。もう、真実を話した方がいいのだろうか。けど、——怖い。





 暫くした後で、ソフィアはアルベルトの腕をそっと押しやった。ソフィアは冷静になろうと努め、落ち着いた声で言った。

「アルベルト、私は単に絵のモデルをしただけなの」
「ソフィア……」

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