結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 アルベルトはそれ以上、何もせず腕を外すと「突然すまなかった」と小声で謝った。ソフィアはアルベルトを見ないように俯きながら彼に伝える。

「今日はこれから仕事があるから、帰らないといけないの。申し訳ないけど、ここで失礼してもいいですか?」

 アルベルトは妻帯者だ。ここにローズがいないとは言え、抱き合うことなど倫理に反している。ソフィアは丁寧な言葉づかいで彼を拒否すると、アルベルトは残念そうな顔をして「そうか」と言って海を眺めた。

「ありがとう、君のおかげで少し思い出すことができた。やはり、君の助けが僕には必要だ」
「……、そう、ですか」
「明日も、お願いできるだろうか。君のいた別荘に入ることができるように、何とか手配してみよう」
「別荘に、ですか?」

 首をかしげるソフィアに、アルベルトは「あぁ」と短く返事をした。

「僕は、……何としても記憶を取り戻したい」

 ソフィアは何も言えなくなり、アルベルトの見る水平線を見つめた。セイリュースの海は、あの頃と何も変わらない。二人の関係はこんなにも変わってしまったのに、打ち寄せる波の音は優しく耳に響く。

二人が落ち着いたのを見計らって、アルベルトの護衛の者が近づいて来た。

「社長、体調はよろしいですか?」
「あぁ、まだ少しふらつくが大丈夫だ」

 アルベルトは手を振ると護衛に向かって馬車を用意するように命じた。

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