結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 両親には『ローズを愛している、彼女の子は僕の子だ』と言えば、亡き兄の子を自分の子と認めて育ててくれると喜ばれ、病んだ父の記憶からはアルベルトの求婚相手であったグレーン男爵令嬢の名前が消えた。

ローズは兄から渡されたヘザー侯爵家の家紋の入った指輪を持っていた。それは自分が嵐の夜に彼女にプロポーズをした時に渡したものだと、アルベルトは信じてしまった。

 ——満月の夜が二度も過ぎた。何かをしなければいけないと焦るのに、それが何かを思い出せない。

 兄の喪が明け、久しぶりに参加した祝賀会でローズを紹介していると、ふと珊瑚色の髪の女性に目が留まる。美しい髪の色だと思ったが、顔色がずいぶんと青白い。ローズも心配して声をかけていたので、自分も声をかけようと近づいたところで、ローズに囁かれた。

『なんだかお腹が張ってきたの』

 だから、愛しいローズの体調を優先した。腰に手を当て、ゆっくりと歩いていく。だが、瞼の裏にはいつまでも彼女の珊瑚色の髪が残っていた。

 違和感は残っていたが、しなくてはいけないことが多すぎた。兄が死に、父が病んでしまう。母は父の看病につきっきりとなり、ローズが産む孫の誕生だけがこころの拠り所となった。

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