結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
「あぁ、当時、セイリュースのことは断片的な記憶しかなくて。それもローズだと認識していたから、確実なことがわからないままだった」

 ソフィアは手を握りしめると、汗をかいていて滑ってしまう。もしかすると、いや、きっとそうに違いない。ローズ、彼女のことをソフィアと思い込んでいたというのだろうか。あの祝賀会で、優しい目をして微笑んでいたのは、彼女がソフィアだと思ったからなのか。

「でも、どうしてそのことがわかったの? ローズのことを愛していたのではないの?」
「最初の頃は、すり替わっていたことに全く気がつかなかった。だが、違和感はあった。その、ローズはあまりにも僕の趣味とは違うのに、僕は彼女のことをたまらなく好きだと思っていた。だけど、ある絵を見た時に気がついた」

 アルベルトは手を組みなおすとソフィアを見つめ、当時の苦しみを再現するように顔をしかめた。

「自分が描いたその絵の記憶がなかった。いや、描いた感覚はあったが、描かれている女性と自分が描いたと思っていた女性は明らかに違っていた。髪の色も違うし、ローズはレース編みなどできなかった」
「そ、それは……」
「そう、その絵がソフィアの肖像画だった」
「……っ」

 ソフィアは一瞬息を止めた。目を見開いてアルベルトを見つめると、彼の紺碧の瞳も揺れている。

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