結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~

新しい住まい

 懐かしいブーゲンビリアの咲く門をくぐり、扉を開けて中に入ると家具も何もかもが当時のままだった。入口に配置されている花瓶も、客室に置いてあるロッキングチェアも、食器棚の中には食器まで残っている。

「この別荘を買う時に、全部丸ごと購入したいと伝えたんだ」
「父が、この別荘を売ったの?」

 まさか、父が母との思い出の詰まったこの別荘を売るとは思わなかった。どれだけお金を積まれても思い出を手放すような人ではなかったのに、何かあったのだろうか。

「そうだね、グレーン男爵は少し資金繰りに困っているようだったから……、購入するのは簡単だったよ」
「お父様が?」
「あぁ、詳しいことは、今から君に紹介する人に聞いて欲しい」
「紹介する人って?」
「新しく僕が雇った子守り兼侍女長殿だよ」

 父のことが気にかかるが、奥の方からパタパタと懐かしい足音が聞こえソフィアは思わず目を見張る。彼女の前に、別れた当時よりすこし年を重ねたミレーが姿を現したからだ。

「ミレー!」
「お嬢さま! ソフィアお嬢さま!」

 懐かしい顔にソフィアはひしっと抱き着いて何度も名前を呼んだ。ミレーも涙を溜めながらソフィアの背をやさしく撫でる。

「お嬢さま、少しお痩せになりましたか?」
「そうね、ちょっぴり痩せちゃったかも」
「それはいけません。これからはミレーがしっかりと料理を用意させていただきますね」
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