結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
大好きな手芸をしながら目を上げるとすぐ傍に彼がいる。それだけで幸せな気持ちになる、こんな日々も終わりを告げるのと同じことだった。

 寂しさが募るソフィアに対して、アルベルトはどこか嬉しそうに油絵具を取り出した。

「今日は君の髪の色に、光沢を入れようと思うんだ。それができれば、完成する」
「光を入れるの?」
「あぁ、僕は最後に光を入れるのが好きなんだ。さぁ、いつもの通りにそのイスに座って」
「え、えぇ」

 ソフィアは白いハンカチを取り出すと、今日が最後であることを覚悟して熱心に刺繍を刺す。肖像画が完成するならば、自分の刺繍も急いで仕上げておきたい。

 今回の肖像画はアルベルトからの提案だったこともあり、代金はいらないという。パトロンからすでに十分手当を貰っているから、絵をどこかに飾ってくれたらそれでいい、と言われている。

 だから、せめてものお返しにハンカチには彼の名前を刺してある。白い布地に青い糸でアルベルトと。家名も、住んでいるところも、パトロンの名前も聞いていない。

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