結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 それでも父親から怒鳴られたことでようやく、ソフィアも現実が見えてくる。床に座り込んで俯いていると、涙が服の上にポトリポトリと落ちていった。

「よりにもよってヘザー侯爵か。……いいか、侯爵の長男は落馬で亡くなったばかりだ。次男が後継ぎになると聞いたが、もう婚約者も決まっていて結婚式も間近だという。全く、お前はその絵描きの男に騙されていたということがわからんか!」
「お父様、それは、……本当なのですか?」

 涙で潤む瞳で見上げると、父親は再び激高して声を荒げた。

「この私を愚弄するつもりか! グレーン男爵家に泥を塗りおって! あぁ、お前は本当に忌まわしい奴だ。母親のみならず、父親をも殺す気なのか? 今、お前の愚行が人の噂になれば、私は社交界を去らねばならぬ。それがどれだけグレーン家に痛手となるか!」

 母はソフィアを産んだあとから体調を崩すことが多くなった。それ以来、何かと父は母の体調不良をソフィアのせいにして疎んでいた。

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