結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
一瞬でこころを奪われたソフィアは彼から目が離せなくなってしまった。彼も同じように、目を見開いてじっとソフィアを見つめている。ほんの一時が二人には永遠にも感じるほどだった。

その静寂を終わらせたのは、彼の一言だった。

「君は……、これが何に見える?」

 少し高めのテナーの声が、ソフィアのこころに明るい色で息づくように響いてくる。

(なんて素敵な声なの! こんな人がセイリュースにいたの?)

 問われたソフィアは、顔の向きを変えてもう一度彼の描いた絵を見直した。木炭でぐるぐると渦のような円が幾重にも描かれていて、初めて見る不思議な模様だ。

「ええと、海を描いているの?」

 渦を巻いているのは、海流だろうか。一面に描かれた渦を見たソフィアは、思ったままを口にしていた。

「君にはこれが、海に見えるんだね」
「えぇ、海流? ぐるぐるしているから、雲とは違うし……」

 ふと彼の方を見ると、少し俯いて元気を失くしたような顔をしている。ソフィアはもしかしたら自分が失礼なことを言ってしまったのかと心配になって声をかけた。

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