結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 まるで、お腹の中にいる子がそれだけは捨てないでと言っているようだった。ヘザー侯爵家の家紋のような模様の指輪を見ると、お腹の中にいる子にとってこの指輪だけが、父親の残したものであることに気がついた。

「そうね、これはこの子にとっての形見のようなものね」

 ソフィアは指輪をそのままにして、荷物をまとめると手紙を書こうと机に向かう。父と、ミレー宛に短く世話になったことを書き封をした。

「お母さま、この家を出くことを許してください。私、どうしてもこの子を産んで育てたいの」

 ソフィアは既に覚悟を決めていた。このまま家にいては、中絶させられてしまうだろう。この子を守るために、自分が出来ることをしなければ後悔するに違いない。

 それに、このまま貴族の世界にいたらまたあの二人の仲睦まじい姿を見ることになる。そんなことには耐えられそうにない。

 翌朝、日の出る前に裏門から屋敷を出たソフィアは、王都を振り返ることはなかった。海辺の街セイリュースを目指して、ソフィアは人で込み合う乗合馬車に乗り込んだ。
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