結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 けれど、背が小さめのリヒトには栄養が足りないのかもしれない。本当はもっと柔らかくて美味しいお肉を買いたいけれど、ソフィアの収入では干し肉を買うのがせいぜいだ。

 男爵令嬢として生きていたあの時は、本当に恵まれていた。当時は美味しくて温かい料理が当たり前だと思っていたけれど、それは人が生きていくには十分すぎる贅沢なことだ。一人暮らしを始めた時は、紅茶を飲もうと思ってもどうやったらお湯を用意できるのかさえわからなかった。

温かい水など出ない井戸水で服を洗うことも、お湯につかることなく濡らした浴布だけで身体を洗うことも、何もかもが初めてだった。数えきれない程苦労をしてきたけれど、赤ちゃんを産んだ後はリヒトの笑顔に癒された。

リヒトを産んで本当に良かった。この可愛い天使を見ているだけで幸せになれる。

「ううん、木のある海のところ」
「そっか、大きな木のところね」
「うん!」

リヒトは何故か、アルベルトと初めて会った木の近くの海岸に行くのが好きだった。そして砂浜に棒で絵を描いたり、砂で家を作ったり遊ぶことに夢中になる。

おもちゃを買うことができないから、自然を相手にして遊ぶことができるセイリュースで本当に良かった。海岸に行けば小さな生き物もいて、リヒトにとっても楽しみが多い。

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