結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
もう、木を見てアルベルトの面影を思い出しても、その姿はどんどん霞んでいく。ソフィアはこの地でリヒトと一緒に過ごす今の生活を守りたいと切実に思っていた。





 夕方になると、ソフィアはリヒトを連れて隣に住むレティの家を訪問した。仕事がある時はいつも、リヒトを預かってもらっている。子どもの多い家だから一人くらい増えても負担はないからと言われ、リヒトが小さなころから世話になっている。

「こんにちは、ソフィアです」
「あぁ、ソフィアさんかい、よく来たね。さぁリヒト君は奥にお入り」
「こんにちは」
「おぉ、今日は挨拶できたね、えらいよ」

 エプロンをつけた大柄のレティが奥から出てくると、挨拶したことを褒められて嬉しそうな顔をしたリヒトは家の中に走って入っていく。

「いつもすみません。あの、これは今週の分のお礼です」

 ソフィアは紙でお金を包み、お礼として用意していたものを渡した。いくら善意で預かってくれていても、夕食代くらいは用意しないといけない。本当はもう少し渡したいところだけど、今の金額がソフィアにできる精一杯だった。

「あぁ、ありがとね。ソフィアさん。でも、リヒト君も大きくなってきたから、夜も酒場で働くなんていい加減に辞められないのかい?」
「それはちょっと考えているんですが、最近ナード糸がなかなか手に入らないから売り物を増やせなくて。すみません、ご迷惑でしたか?」
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