国民的アイドルの素顔についての報告書
「ねぇライくん、拓斗って、普段どんな感じなの?」
「急だね。どうかした?」

今日はお仕事の現場が私の家に近かったから、ライくんが時間を潰すために遊びに来てくれた。高校生の私たちと違って、ライくんは3つも大人。赤毛で右耳にシルバーのピアスがついているけど、見た目に反していつも優しく、包容力のあるお兄さんって感じ。

「アイドルやってる拓斗って俺様で強引な王子様って感じじゃん?」
「うわー恥ずかし。間違ってないけど」
「でもさ、家に帰ってきたときくらいは優しくしてほしいの。かっこいい拓斗なんてテレビでいくらでも見られるから、私といるときくらいはやさしくしてくれたっていいじゃんって思うんだ」

飲みかけのコーヒーは、氷が溶けて少し薄くなってしまった。ミルクをたっぷり入れた、甘いコーヒーしか飲めない私は、苦みや痛みへの耐性がてんで無い。

「そっか。じゃあ、俺が甘やかしてあげる」
「え?」

急に椅子から立ち上がったライくんが、私の目の前で腕を広げる。飛び込んでおいで、と口にはしないけど、優しく弧を描く瞳に吸い込まれそうになる。

今ここでライくんに抱きしめてもらったら、目、醒めるかな。

ふっと足が前に出そうになったとき、家のドアが開く音がした。玄関とリビングは歩いて10歩もない。不機嫌な足音が近づいてくる。
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