国民的アイドルの素顔についての報告書
「おいてめぇ、人の彼女に何してんだよ」
「やだなぁ、妹の間違いじゃない?」

私に向かって広げた腕を隠す素振りも見せず、そのまま大げさに肩を竦めた。

「妹ちゃん、拓斗が怖いってさ。だから俺が慰めて甘やかしてあげようかと思って」

諭すような声音と、煽るような言葉。拓斗の扱いをよくわかっているライくんは、たまにわざと拓斗を怒らせる。拓斗が我慢できるギリギリのラインを、ライくんは見誤らない。

「じゃ、仕事行こっか。今日の撮影は『嫉妬に狂う男』特集だから、そのままの顔でいいんじゃない? 準備ばっちり」

ごめんね、めぐちゃん。と、そっとライくんが耳元で囁く。恐る恐る拓斗の方を見ると、私にはひとつも視線を寄越さずライくんの後を追っていった。
呆れられたかな。
弱ってるところに付け込まれて、私がライくんのところに行こうとしたから。
拓斗はかっこいいし歌も上手いしダンスも上手だから、きっと拓斗と付き合いたい女の子はこの世にごまんといる。
仕事から帰ってきたら、捨てられちゃうかな。
コーヒーの最後のひとくちは、苦くて苦くて。飲み干したそばから、涙になって溢れてきた。

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