国民的アイドルの素顔についての報告書
拓斗が帰ってきたのは、11時を過ぎた頃だった。高校生は22時までしか働けないけど、撮影が時間通りに終わってから「大人の用事」があるそうだ。拓斗には知らなくていいと言われたけど、それが私たちファンに素敵なものを届けるための時間だということを、ライくんから聞いた。
「おかえり」
玄関で靴を脱ぐ拓斗に、そう声をかける。思っていた以上に震えてしまった音が、なんだかとても情けなくて泣きたくなった。
「仕事、どうだった?」
「……」
「雑誌、発売したら買うね。拓斗ももちろん、メンバーのみんながどんな顔してるのか楽しみ。嫉妬、だっけ? 絶対魅力的だもん、」
そこまで言葉を紡いで、自分の異変に気付く。
目の奥が熱くなって、鼻がつまる。上手く息ができなくなって、鼻声はみっともなく揺れていた。
あーあ。終わった。
はぁ、と頭上からため息が降ってくる。私は俯いて、ただパジャマの裾を強く握りしめることしかできなかった。