記憶喪失のお姫様は冒険者になりました
泣いている気がした。
俺の問いにミホは何も答えなかった。

見慣れた宿の前で俺は馬車から降りた。
もう……ミホには会えない。
そのことが俺には耐えられなかった。
「クロックス!無事だったんだね!よかった……。あれ、ミホは?あとから行かなかったかい?」
宿の前で待っていた女将が俺のところに来る。
俺の無事を確認して安堵していたのもつかの間。
ミホがいないことに気づいた。
「……ミホは…」
もうここには帰ってこない。
ミホはもういない。
そう言わなきゃいけないのに…言ってしまったらもう本当に会えなくなってしまう気がした。
「ミホに話をしてなかったんだね。ミホに話をしたら今までお世話になりましたって言って出ていったんだよ」
そう言って女将は俺が連れて行かれたあとのことを話してくれた。
「王都に楯突いたら殺されるって言ったのにあの子は……」
『私はそれでも行きます。クロさんは私にとって大切な人…ですから!』
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