見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~
「人は絶対に見た目で判断するなよ!」

とイケメンの父が言った。

「そうよ。大事なのは、ここよ!」

と豊満な胸に手を当てて、母が言った。

「ここって何処!? 胸?」

曽根崎愛美(そねざきまなみ)が聞く。

「何言ってのよ…… ハートよ、ハート」

と言う母も、モデル体型のべっぴんなのだ。

この二人がそんなことを言っても全く説得力はないが、まあそんな風に教えられて愛美は育った。
そしてそんな両親の恩恵を受けた愛美も、美人と言われる部類に入っていた。



「ここ、いいですか?」

「え? あ、どうぞ」

と愛美が返すと、会釈をして向かいの席に座ったのは──同期の遠藤雅史(えんどうまさし)だった。

遠藤は席に着くなり、勢いよくうどんを啜り始めた。
見た目で判断するな、とは言っても彼はちょっと無理だな、と愛美は思った。
分厚いレンズの眼鏡に、髪は伸びっぱなしのボサボサ。整えられていない無精髭は、ワイルドを通り越して、小汚い印象だ。あと、うどんを啜った後にハフハフ言うのが気になって仕方がない。それと……湯気で曇った眼鏡もすごく気になる。

──あ、ハフハフはみんな言うか……ごめんなさい。

とにかく、見た目があまりよろしくないのだ。
ちらちらと遠藤に目を遣りながら、愛美もフォークに巻き付けたパスタを口に運ぶ。
広い社員食堂で空いている席はたくさんあるのに、何故わざわざここに座るのか、と愛美は思っていた。

──だけど遠藤さん、お箸の持ち方は綺麗だな……ぉわっ──!

遠藤と目が合った。
愛美が遠藤に苦笑いの愛想笑いを向けると、箸を止めた遠藤の眼鏡の曇りが引いた。
眼鏡のレンズが分厚いせいか小さく見える遠藤の目が、三日月になった。
ものの一、二分でうどんを平らげた遠藤が席を立ち「お先です」と言ってトレーを持って愛美の横を通り過ぎる──と、ふわっといい香りがした。
愛美が思わず振り返ると、振り向いた遠藤とまた目が合った。

──う、気まずい……。

変な誤解をされていないか、と考えていると「おつかれ~」と同期の中野博子(なかのひろこ)がテーブルにトレーを置き、愛美の横に腰を下ろした。

「遠藤さんとランチ?」

博子がにやけながら愛美を茶化すと、近くに座っていた数人の女子社員がクスクスと笑った。

「やだ、違うよー」

言ってから、遠藤本人に聞こえてやしないか、と確認の為に振り返ると、後ろ髪もボサボサの遠藤が、トレーを返却している姿が見えた。

遠藤からいい香りがしたことは黙っておこう、と何となく愛美は思った。

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