見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~
翌日の昼休みにも、また遠藤が愛美の向かいの席に座った。
やっぱり誤解されたかな、と考えていると、遠藤は今日もうどんを啜る。フーフーして、ハフハフ言いながら、眼鏡を曇らせて。
昨日と変わったことといえば、遠藤の髭がなくなっていたことだ。意外にシャープな遠藤のフェイスラインを見て、そっちのほうが絶対いいのに、と愛美は思った。
愛美の視線に気付いたのか、遠藤が顔を上げる。

──やばい、バレた。

「お、おうどん好きなんですか?」

咄嗟にどうでもいいことを聞いていた。
遠藤は驚いたような表情を見せてから言った。

「ああ、いや、つい食べやすいものを……」

「え?」

愛美が聞き返す。

「何か食欲がなくて」

「ああ……そうですか」

聞いておいて、気の利いた返しが思い付かなかった。


翌日の木曜日、食堂で何となく待っている自分がいた。
けれど、遠藤は来なかった。
『食欲がなくて』と言っていたことをふと思い出して、体調でも崩したかな、と愛美は昨日の遠藤の表情を思い返していた。

「今日は遠藤さん来ないね」

横に座った博子がニヤニヤしながら言う。

「昨日食欲ないって言ってたから……」

「ふーん……そうなんだ」

愛美が普通に返したからか、博子も特に茶化すことはなかった。
別に遠藤と一緒に食事をしているわけではない。遠藤はものの一、二分で掻き込むのだから。その様子を愛美がただ見ているだけだ。
今日は遠藤のハフハフが聞けないのか、と思っている自分に気付いて、おかしくなった。


金曜日、遠藤が現れた。
また愛美の向かいの席に座って、フーフーしてからうどんを啜る。ハフハフ言いながら、つゆを付けて……?

──いや、それ冷やしうどんじゃん!

愛美は堪らず吹き出した。
遠藤が目を丸くしている。

「遠藤さん、フーフーハフハフって……それ冷やしうどんですけど?」

愛美が言うと、遠藤の頬はみるみる紅潮した。

「あ、そうだった」

と恥ずかしそうに頭を掻いた。

「昨日はお休みしてたんですか?」

勢いで聞いてみた。

「あ、うん。何か最近胃の調子が悪くて、昨日胃カメラ検査してきたんだ」

「え!? それで……大丈夫だったんですか?」

「うん。何の異常もなかったよ。若いからそのうち治るでしょう、って」

「そうなんですね。良かった。けど遠藤さん、すごい早食いだから……それも胃には絶対良くないと思いますよ」

今日は会話らしい会話になっているな、と愛美は思っていた。

「そうだよね。良くないのはわかってるんだけど、学生時代の部活で早食いが癖付いちゃって……」

「へぇー、遠藤さん何部だったんですか?」

「サッカー」

意外だった。遠藤がスポーツをするイメージが湧かない。

「今、意外だと思っただろ」

「……はい」

遠藤の目が三日月になった。
愛美は遠藤のその目が結構好きだ、と思った。

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