見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~
月曜日、愛美は食堂の入口近くの席に座ってみた。
特に決まっているわけではないのだが、決まっているかのように皆だいたいいつも同じ席に座るものなのだ。愛美はいつも、食堂の中央に博子と並んで座る。
もしかすると、遠藤の定位置がたまたま愛美の向かいの席だったというだけなのではないか、と思えたのだ。
しばらくすると、遠藤が姿を見せた。
遠藤はいつもの場所に目を遣ってから、キョロキョロと辺りを見回していた。そして目の前の愛美に気付くと眉を少し上げた。
「そこ、いい?」
「どうぞ」
遠藤が自分の前を選んで座っていたことがわかると、愛美は安堵の溜め息を漏らした。
今日も遠藤の髭は綺麗に剃られていて、珍しくトレーには唐揚げが乗っていた。
「食欲戻りましたか?」
愛美が聞く。
「それがさぁ、胃カメラ検査した途端良くなったんだよね。異常ないことがわかって安心したのかも」
遠藤が少し困ったように笑ってからお椀の中の味噌汁に息を吹き掛けると、いつものように眼鏡が曇った。
愛美はまた吹き出した。
「遠藤さん? 食事の時だけ眼鏡外したらどうですか? 話してる最中に目が見えなくなったら、おかしくて笑っちゃいますよー」
すると遠藤も「そうだよね」と笑いながら眼鏡を外した。
顔を上げた遠藤の目は一・五倍程大きく見え、目力が急に増したようで、目が合うと気恥ずかしくなって、愛美は一瞬目を逸らした。
「何か雰囲気変わりますね」
「変?」
「いえ……寧ろそっちの方が……いいと思います」
「そう……か。良かった」
遠藤はまた三日月の目をした。
そこへ博子がやってきて、遠藤を見るなり驚いた表情を見せた。
「え? 遠藤さんですか? 誰かと思っちゃいましたよー」
博子からもそう言われ遠藤は少しはにかんだ。
三人で会話しながらの昼食は初めてだった。
遠藤の食べるスピードがいつもよりゆっくりだったのは、愛美が先週遠藤の早食いを指摘したせいだろうか。
「遠藤さん、眼鏡外すと意外にいい男でビックリしちゃった」
遠藤が食事を終えて去った後、博子が言った。博子は愛美に気を遣ってお世辞など言うタイプではない。正直にそう思ったのだろう。
その日会社を出ると、声を掛けられた。
「曽根崎さん!」
振り返ると、遠藤だった。
ああ……と思った。やっぱり、というのか……。
会社では作業着姿の遠藤しか見たことがなく、私服姿を見るのは初めてだったのだが、何ともいえない感じだったのだ。
「お疲れ様です」と笑顔で挨拶すると「駅まで一緒にいい?」と遠藤が言い、笑顔で頷いた。
「遠藤さんの私服姿初めて見ました」
「ああ……ダサイだろ」
言って遠藤は苦笑いした。
「連れにもよく言われるよ。もうちょっとお洒落に気ぃつかえよって……」
「まあ……そういうのは興味があるかないかですよね」
遠藤は自分自身をよくわかっていると思う。虚勢を張ったり、変に格好を付けることもしない。そんな所に好感が持てた。
特に決まっているわけではないのだが、決まっているかのように皆だいたいいつも同じ席に座るものなのだ。愛美はいつも、食堂の中央に博子と並んで座る。
もしかすると、遠藤の定位置がたまたま愛美の向かいの席だったというだけなのではないか、と思えたのだ。
しばらくすると、遠藤が姿を見せた。
遠藤はいつもの場所に目を遣ってから、キョロキョロと辺りを見回していた。そして目の前の愛美に気付くと眉を少し上げた。
「そこ、いい?」
「どうぞ」
遠藤が自分の前を選んで座っていたことがわかると、愛美は安堵の溜め息を漏らした。
今日も遠藤の髭は綺麗に剃られていて、珍しくトレーには唐揚げが乗っていた。
「食欲戻りましたか?」
愛美が聞く。
「それがさぁ、胃カメラ検査した途端良くなったんだよね。異常ないことがわかって安心したのかも」
遠藤が少し困ったように笑ってからお椀の中の味噌汁に息を吹き掛けると、いつものように眼鏡が曇った。
愛美はまた吹き出した。
「遠藤さん? 食事の時だけ眼鏡外したらどうですか? 話してる最中に目が見えなくなったら、おかしくて笑っちゃいますよー」
すると遠藤も「そうだよね」と笑いながら眼鏡を外した。
顔を上げた遠藤の目は一・五倍程大きく見え、目力が急に増したようで、目が合うと気恥ずかしくなって、愛美は一瞬目を逸らした。
「何か雰囲気変わりますね」
「変?」
「いえ……寧ろそっちの方が……いいと思います」
「そう……か。良かった」
遠藤はまた三日月の目をした。
そこへ博子がやってきて、遠藤を見るなり驚いた表情を見せた。
「え? 遠藤さんですか? 誰かと思っちゃいましたよー」
博子からもそう言われ遠藤は少しはにかんだ。
三人で会話しながらの昼食は初めてだった。
遠藤の食べるスピードがいつもよりゆっくりだったのは、愛美が先週遠藤の早食いを指摘したせいだろうか。
「遠藤さん、眼鏡外すと意外にいい男でビックリしちゃった」
遠藤が食事を終えて去った後、博子が言った。博子は愛美に気を遣ってお世辞など言うタイプではない。正直にそう思ったのだろう。
その日会社を出ると、声を掛けられた。
「曽根崎さん!」
振り返ると、遠藤だった。
ああ……と思った。やっぱり、というのか……。
会社では作業着姿の遠藤しか見たことがなく、私服姿を見るのは初めてだったのだが、何ともいえない感じだったのだ。
「お疲れ様です」と笑顔で挨拶すると「駅まで一緒にいい?」と遠藤が言い、笑顔で頷いた。
「遠藤さんの私服姿初めて見ました」
「ああ……ダサイだろ」
言って遠藤は苦笑いした。
「連れにもよく言われるよ。もうちょっとお洒落に気ぃつかえよって……」
「まあ……そういうのは興味があるかないかですよね」
遠藤は自分自身をよくわかっていると思う。虚勢を張ったり、変に格好を付けることもしない。そんな所に好感が持てた。