見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~
翌日愛美の向かいの席に腰を下ろすと、遠藤は眼鏡を外した。
愛美はそれを見てにっこり笑う。

「昨日ネットでこれ買ったんだ」

遠藤がスマホの画面を愛美に見せて言った。
そこにはお洒落な人気モデルが写っていた。

「その服、どう思う?」

「ああ……服ですか。へえー、いいんじゃないですか? 遠藤さんお洒落に目覚めましたか?」

「あ、いや……ちょっとずつ勉強しようかと思ってね。曽根崎さん、教えてくれる?」

「ええ、私でよければいつでも……」

「良かった。嬉しい」

遠藤は言葉通り、本当に嬉しそうな顔を見せた。

「そのモデルさんの髪型もいいですね」

愛美が何気無く言った言葉を聞いていたのだろうか。
翌日遠藤の髪型は激変していた。

遠藤がいつものように愛美の向かいに座ると、近くに座っていた女子社員が言った。

「えーー!? 遠藤さんですか? カッコイイー!」

つい最近、遠藤を見てクスクス笑っていたくせに──と愛美は心の中で呟いた。
遠藤はそれを適当に躱し、愛美に聞く。

「変……じゃないかな?」

「すごい素敵ですよ。似合ってます」

愛美が満面の笑みを向けると、遠藤は照れながらまた嬉しそうな表情を見せた。髪にはヘアワックスが塗られているのもわかる。遠藤の頑張りが窺えた。


翌日から女子社員の態度が一変した。

「遠藤さん、今日も素敵ですね~」

その声が耳に入り、愛美は振り返る。

食堂にやって来た遠藤がトレーを持って愛美の所へ向かう途中、女子社員から足止めを食っていた。
愛美の視線に気付いた遠藤は愛美に向かって手を振ると、それらを躱してやってきた。

「あ、俺も今日ハンバーグだよ」

三日月の目をして遠藤が言った。
愛美も笑顔を見せた。

「曽根崎さん……」

「博子ちゃんと同じ呼び方でいいですよ」

咄嗟に言っていた。

「え? あ……うん。ま、愛美ちゃん?」

「はい」

「これ、食べて」

遠藤は自分のトレーに乗っていたプリンを愛美のトレーに乗せかえた。

「わあー、嬉しい!」

何となくモヤモヤしていた気持ちが吹き飛んだ。

遠藤が視線を上げたので振り返ると、愛美の後ろにニヤニヤ顔の博子が立っていた。

「私にはないんですか? ……プリン」

遠藤は苦笑いしていたが、愛美は頬が熱くなるのを感じていた。

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