見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~
今日も遠藤は足止めを食っていた。

「遠藤さん、今日仕事終わりご飯行きませんか?」

「あ、いや……いいよ」

「じゃあ明日は?」

「明日も無理かな」

愛美は聞き耳を立てていた。

「遠藤さ~ぁん、来週コンパしましょうよぉ!」

「俺、そういうの好きじゃないからいいよ」

遠藤は全ての誘いを見事に断って愛美の元へやってきた。

「愛美ちゃん、お疲れ」

「……お疲れ様です」

「どうした? 何かあった?」

遠藤に聞かれて「え? 何でですか?」と聞き返すと、遠藤は椅子に腰を下ろしてから言った。

「今日何か声に元気ないから」

「そんなことないですよ」

と返したが、愛美の心の中は靄がかかっていた。

「プリン食べたら元気になる?」

遠藤が真剣にそんなことを言うものだから、おかしくて吹き出した。


「愛美ちゃん、お疲れ」

会社を出ると、見慣れない遠藤が立っていて驚いた。
『雑誌の中から飛び出したような』とはこのことだと思った。
数日前にネットで購入したと言っていた服だと一目でわかった。
けれどもそれは、遠藤にとてもよく似合っていた。
また一緒に駅に向かって歩いていたが、遠藤はしばらくひと言も喋らず、何となく気まずい空気が漂っていた。
駅に近付くと遠藤が口を開いた。

「あのさぁ……」

「ん?」

「何か言ってよ……」

「え?」

愛美は戸惑った。

「これ、この前買った服なんだけど……」

「ああ……! うん、すごく似合ってますよ」

「本当?」

「はい」

愛美は笑顔を見せた。

「これだったら、俺と一緒に歩いてくれる?」

何のことを言っているのか、わからなかった。

「愛美ちゃん、明日は何か予定ある?」

明日は土曜日だった。

「いえ、特に何も……」

「食事に誘ったら迷惑かな?」

遠藤がためらいがちに言った。

「え? あ、いえ……全然……」

愛美の胸は高鳴った。

「愛美ちゃんの最寄り駅は何処?」

「F駅です」

「じゃあ、五時にF駅で待ってる」

「はい、わかりました」

約束をして別れた。
デートという認識でいいのだろうか。

その夜、明日は何を着ていこうか、と愛美はクローゼットを開け心を踊らせていた。

< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop