見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~
会計をする遠藤の横で愛美は言った。

「何かやだ……」

そして早足で一人で先に出口へ向かった。

「え、愛美ちゃん!?」

「遠藤様! お釣が──」

二人の声を背に、愛美は店を飛び出し駆け出した──けれども、すぐに遠藤に腕を掴まれた。

「愛美ちゃん、ごめん! 俺、鈍感だからわかんなくて。さっき急に愛美ちゃんの様子が変わったから……愛美ちゃんの気に障るようなことしてたなら謝るから! ……ごめん」

「……謝るのはこっちだよ」

愛美は涙を溢しながら言った。

「え? 何で? どうした? 俺、何ともないから。泣かなくていいから……」

遠藤はかなり動転しているようだった。

「私、人の目ばっかり気にして、遠藤さんにあれこれ言ってきたけど、普通に考えればおかしいよね。遠藤さんは優しいから何も言わないけど……」

「え? 俺バカなのかな……マジで何のことか全然わかんないんだけど……」

遠藤は困惑して頭を抱えていた。

「髪型はこんなので、服装はこんなので、眼鏡はない方がいいとか、遠藤さんにあれこれ散々言っておいて……」

「ん?」

「遠藤さんは私に何も要求なんてしてこないのに……」

「いいじゃん。俺は、愛美ちゃんがそうして欲しいと思うなら喜んでそうするよ」

遠藤は愛美と正反対のトーンで返した。

「でも結局それって、遠藤さんが人からどう見られるかを、私が気にしてるだけで……」

「それの何が悪いんだよ」

「え?」

「愛美ちゃんは俺の見た目を良くしてくれただけじゃん?」

「そうだけど……そうじゃくて……」

「性格が合わないとか、喋り方が嫌だとか、顔が嫌いだって言われたらどうしようもないけどさ……」

「……うん」

「そういうことは、俺まだ一度も愛美ちゃんから言われたことないし」

「だってそんな風に思ったことないし」

「俺の中身を見てくれたってことだろ?」

「勿論、私が好きになったのは、遠藤さんの内面だよ」

「じゃあいいじゃん……てか俺、今愛美ちゃんから告白された? ……じゃない、告白させた……か」

遠藤が一人で言いながら赤面している。

「みんな、遠藤さんのこと何も知らないくせに──」

「え?」

「遠藤さんの外見が変わった途端に、周りの遠藤さんを見る目が変わって、遠藤さんに近付いて声掛けて……」

「え、何? ちょっと待って……それって愛美ちゃん、妬いてる?」

「だって嫌なんだもん」

「マジか……」

遠藤は耳まで真っ赤にした。

「そんなこと言われたら、抑えられなくなるんだけど……」

言うと同時に、遠藤は愛美を抱き寄せた。
遠藤の唇が愛美の唇に軽く触れた、と思うとすぐに離して、遠藤が言った。

「二人きりになれる所、行ってもいい?」

──遠藤さんはこんな風に誘うんだ。

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