ブルー・ロマン・アイロニー
Prologue
手を引くのはいつだって、あなただった。
後ろからついていくのはいつだって、わたしだった。
そのたびに呆れた顔をしていたけれど、本当はずっと羨ましく思っていた。
何にでも興味をもつあなたに。
おいしそうに食べるあなたに。
夜になったら眠れるあなたに。
誰よりも人間くさいあなたに。
そんなあなたの手を、わたしが引いて走る日が来るなんてね。
息があがって、弾む。
勢いをなくした鞠のように、どんどん弱くなっていく。
そのとき、膝が、がくんと笑った。
あっと思ったときには足がもつれて、わたしたちは地面に倒れこんでいた。
急いで起きあがろうとしたけれど、足をくじいたのか、起きあがるだけで精一杯だった。
早く逃げなきゃいけないのに。
じゃないと、あなたは連れていかれてしまう。
「もういいから」あなたが言った。
「全然よくない」とわたしは叫ぶ。
アンドロイドなんていなければ、とあれほど世界を恨んでいたわたしは、あなたがアンドロイドじゃなければと運命を恨みそうになる。
だけど、あなたがアンドロイドじゃなかったら、わたしはとっくに自分を見失っていた。
尊い感情を忘れてしまっていた。
自分の“ほんとうのさいわい”に気づけなかった。
名前を呼ばれ、顔をあげる。
そして滲む世界の向こうに、見てしまったのだ。
銀河のような、
冗談みたいに深く、
それでいて透きとおった青色を。
「こんなにも近くに、
ずっとここにあったんだね────……」
それはあなたがずっと夢に見ていた、
なによりも──な色だった。
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