ブルー・ロマン・アイロニー
そのすらりとした体を折って、試すように上から顔を覗きこまれた。
「失望したか?感情で、もっというとお前のためを思って行動したわけじゃない俺に」
「え、全然」
「……ん?」
「失望もなにも、わたし、元からアンドロイドに期待も希望も抱いていないし。むしろ感情で動かれたほうがびっくりするというか、そもそもありえないというか」
「ん?」
「でも、ありがとう」
言った瞬間、恥ずかしくなって下を向いたけれど、鼻水が出てきそうになったのであわてて上を向いた。
わたしの言葉をローディングしきれていないように固まっているアンドロイドと至近距離で目と目があった。
「助けてくれて、その……ありがとう」
「……それは、だから、当然のことなんだよ。そうプログラムされてる」
「わかってる。これは、その、えっと……アシモフにだよ」
目を丸くするアンドロイドにわたしは身振り手振り、照れ隠しで早口に言う。
「そう、アシモフ。ロボット工学の三原則とゼロ番目の原則を作ってくれてありがとう、アイザック・アシモフ!」
「なんだそりゃ」
この学校には素直じゃねえやつしかいねえのか、と勝手に決めつけて言ったアンドロイドは、まあ、と息を吐いた。
「やれるだけやった。変わろうと努力もした。それで報われねえのはお前のせいじゃない。あいつらのせいだよ」
ずしりとした重さを頭の上に感じる。ぐぐ、と首を無理やり持ちあげるとアンドロイドが腕を置いているのがかろうじて見えた。
「だから、気にすんな。お前は悪くねえ。むしろここまでよく耐えた、よく頑張った」
重いと文句を言おうとしていたわたしに、ふいにかけられた優しい言葉。
さすがに不意打ち過ぎて、ようやく引っ込んだ涙がまたしても出てきそうになったのでアンドロイドの脚を軽く殴った。