ブルー・ロマン・アイロニー
そのあとどうやって音楽室をあとにしたのか覚えていない。
気付いたらノアとふたり、廊下を早足で歩いていた。
さっきまでの出来事はすべて幻想だったのかも。そう思ったけれど、窓の外の色が時間の経過をしっかりと表していた。
現実だ。ぜんぶ、現実。
音楽室で聴いた音色も、ルーカスくんと会話したことも、そして……
「あのね、ノア。わかってると思うけど」
「ん」
「さっきのは海外ではよくあることだからね。あれは親愛の証なんだよ」
「ンン~?」
「なに、ちょ、前に回らないで」
「あまりちゃんの可愛いお顔が真っ赤ですけど?」
「っ、うるさい!」
手で隠そうとしてもお構いなし。隙間をかいくぐって覗きこんでくるそのニヤけ顔を押し返す指先まで、心なしか赤く染まっているように見えた。
「人生どう転ぶかわからねえなあまり?」
「知らない」
「いやはや人間も捨てたもんじゃねえなあ」
「……知らない」
「今日は帰ったら上映会だ。俺の録画機能は超高画質だぜ」
「うわああ!無理!聞けない!」
あれを二回も聞いてしまったら、きっと耳から脳みそが溶け出てしまう。
それに、もう頭の中ではさっきからずっとリピートされている。
明日からどういう顔をして挨拶すればいいんだろう。
隣の席に座ればいいんだろう。
わたしは今夜も徹夜コースだ。眠れない。絶対、眠れない。
今回ばかりは違う意味で。