ブルー・ロマン・アイロニー


どんどん人のいなくなっていく教室。

わたしはいつもノアがしているように頬杖をついて、雨の途切れない空を眺めていた。


そういえば、と思う。

しょうがないって言ったの、ひさしぶりだったかも。


ほとんど口癖のようになっていたそれは、以前は毎日のように心の中で唱えていた。

魔法の呪文のように何度も何度も使っていた。

実際に口にも出していたし。


それを言わないようになった理由はそう、あれだ。

わたしがしょうがないって言うたびに、ノアが口うるさく指摘してきたからだ。



────また言った!お前、しょうがない禁止!


────なんでもクソもねえ!諦めるな!もっと足掻け!



あれは本当にうるさかった。

わたしがしょ、と言いかけると目敏く反応する。

もはや脊髄反射のように反応する。ノアに脊髄はないけれど。



「……変わってるなぁ」


さて、誰のことを言ったんだろう。自分でもわからない。


目を閉じる。

まぶたの裏に浮かぶのは、見慣れたその姿。

途切れのない雨音が、いつまでもわたしを包みこんでいた。


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