ブルー・ロマン・アイロニー


「帰らないのか?」

「あ、うん……傘なくて、雨が止むのを待ってたんだけど」


言いながらわたしはちらりと窓の外を見やった。

べったりと濃い灰色で塗りたくられた空の色は、きっとこれ以上待っても変わらないだろう。

ははは…と乾いた笑いが口から漏れた。



「ほんと、とことんツイてないというか、いつも間違えてばかりだなわたし……」


これだから、怖いんだ。

挑戦することが。期待することが。

しょうがないで済ませてしまいたくなるほど、今までさんざん打ちのめされてきた。


わたしはいつになったら報われるのだろう。

こんなことを考えている時点で、わたしは一生報われない気がする。


バカみたいと呟いてから、ルーカスくんがいたことをはっと思い出した。



「ご、ごめん!今のはちょっとした愚痴というか、そんな大したことじゃ──」

「傘ならここにある」


長寿アニメに登場するドラちゃんのごとくルーカスくんがどこからか取り出したのは、どこにでもあるビニール傘(ちょっと大きめ)だった。


う、うん……?

その意図がつかめないわたしに、かまわずルーカスくんが立ちあがった。



「これで帰れるな」


出会ったときからほぼ変わらない、感情の読めないその表情。

彼の持つ金色の髪だけが、この陰鬱とした灰色の世界にまるで似つかわしくなく。

そんな世界から引っ張りあげてくれるように、その大きな手がわたしの腕をつかんだのだった。


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