ブルー・ロマン・アイロニー
「ルーカスくん、そっち濡れてない?」
「濡れてない」
「だいぶこっちに傾けてもらってる気がするんだけど……」
「気のせいだろ」
それが、気のせいじゃないから言ってるわけでして。
もしかしてわたしの肩幅、そんなに広いと思っている?
お言葉に甘えて傘に入れてもらったわたしは、そのまま駅まで送ってもらうことになった。
学校から駅までおよそ10分。短いようで長いこの時間、絶対に会話に困ると思ったけれど。
それはわたしの杞憂に終わった。
なんとルーカスくんから話題を振ってくれたのだ!
「……雨は嫌いか?」
「え?うん、そう……だね。偏頭痛持ちだからよけいかな。ルーカスくんは?」
「俺も嫌い。濡れるのが得意じゃない」
「濡れるのが得意じゃない?アンドロイドみたいなこと言うんだね」
「もしそうだとしたらどうする?」
うーんと少し考えてわたしは言った。
「びっくりした!って笑うかな。腰抜かすかも」
「それは見物だな。そういえば、今日はあの黒服は?」
「お留守番させてる。これくらいの雨なら連れてきてもよかったかも」
そう言って笑うわたしにルーカスくんは「でもそのおかげでいまは二人きりだ」なんて言うから。
期待しちゃだめだ。
だって期待したぶん、裏切られたときのショックが大きくなるから。
それなら最初から期待なんてしないほうがいいんだ。
自分につよく言い聞かせながらも、わたしは顔にじわじわと熱が集まっていくのを感じた。
……散ってよ、顔の余分な熱。