ブルー・ロマン・アイロニー


次の日のわたしのそわそわはたぶん目も当てられないほどだった。

放課後が近づいてくるにつれて、そわそわは大きくなっていく。


そのたびに先生に注意されて、ひええと赤くなりながら謝って。ルーカスくんに張り切ってんなこいつ、って思われたらどうしようと碧くなった。


そしてついに隣を見ることができないまま、ついに終礼がおわってしまった。


あれだけ待ち望んでいたはずなのに、わたしの帰り支度をする手はひどくモタモタしていた。

なんて声をかけたらいいんだろう、とか。

この筆記用具をしまい終わったら帰り支度もおわる、だとか。

ルーカスくん、約束のこと覚えてるかな、とか。いろんなことを思った。


隣は見られなくて、視線はずっと机の上にそそいでいた。


それでも、とうとう帰り支度までもが終わってしまい。数秒固まったわたしは意を決して、えいっと隣を見た。

そこには当たり前のようにルーカスくんが座っていて、愛おしいものを見る目でこちらを見ていた。


ぐっと言葉につまって、すぐに「お、おまたせ……っ」とわたしは声を発した、もちろん裏返った。



「……ん。準備はできたか?」

「う、うん!待たせちゃってごめんね」

「謝らなくていい。行こう」


首振り人形のように何度もこくこくとうなずいたわたしは、一緒になって立ちあがった。


あ、そうだ……



「ノア」


じっとわたしたちを見ていたノアは、ふ、と表情を緩める。

しょうがねえなあ、と。

まるで子供の成長を見守る親のような目で、わたしの髪をさらりと梳いた。



「先帰っとくから。楽しんでこいよ」


そうして教室を出ていこうとしたノアはふと立ち止まり、ルーカスくんに「リルおめーこいつのこと泣かせんなよ?」と冗談っぽく肩を小突いて、今度こそ出ていった。


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