ブルー・ロマン・アイロニー
「どう、なって……」
「大丈夫か?」
それまで戸惑っていたわたしは、耳に届いたルーカスくんの落ち着いた声にほっとした。
すぐ近くにルーカスくんがいる。
きっと、わたしが落ちたあとに階段を降りてきてくれたんだ。
幾分か落ち着きを取り戻しながら、「わたしは……大丈夫」と答えた。
すると、わたしを拘束していた何かからするりと力が抜けた。がしゃん、と何かが崩れる音がする。
節々の痛む体を無理やり起こして、ようやくひらけた視界に目を細める。
一体なにがわたしを守ってくれたんだろう。
そう思って、それに顔を向けたときだった。
「…………え、?」
息ができなくなった。
階段から落ちたときよりも強い衝撃がわたしを襲った。
そこに転がっているのはルーカスくんだった。
仰向きになってこちらを見ている彼には右腕も右足もなくなっていた。
とっさにそれらを探す。
すこし離れたところに落ちていた。
断面が鉄の色をしていた。ぎゅっと凝縮したような鉄の断面だった。義肢、だったの?
「るーかす、く……」
そのとき手に何かが当たった。何かの部品。
よく見るとそれは、そこら中に散らばっていた。
非常ベルがいつまでたっても鳴り止まない。
それはずっと、わたしの近くから鳴っていた。
……ちがう。これは非常ベルなんかじゃない。
声を失ってルーカスくんを見つめるわたしの視線を、彼はゆっくりとした動作でたどった。
そうして、今まで忘れていたことをようやく思い出したかのように、「ああ、そうか」と言った。