ブルー・ロマン・アイロニー
「あまり!」
どこからかノアの声がする。
きっと騒ぎを聞きつけて、いそいで駆けつけてきたんだろう。
だけどわたしは目の前の、ボロボロになったルーカスくんにしか意識がいかなかった。
「アンド、ロイド……?」
まるで初めてその単語を聞いたように反芻する。意味がわからなかった。
「……どーりで」
後ろから聞こえてくるノアの言葉の意味もわからない。
なにを言われているのか、どうしてルーカスくんが傷ついているのか。
……わたしを庇って、一緒に落ちたんだ。
そう思った瞬間、全身の肌がざわりと粟立つのがわかった。
「ほ、けんしつ……っ、いますぐ保健室に行かなきゃ……!」
「落ち着け、どう考えても保健室で済む怪我じゃない」
ルーカスくんは、いや、と続ける。
「そもそもこれは怪我じゃなくて破損だ。だから痛くもないし、大丈──」
「大丈夫なんかじゃないよ!!どうして、どうしてわたしを庇ったりしたの!!」
わたしは怒った。助けてもらった立場であることも忘れて、ルーカスくんに怒鳴った。
なんだこいつって思われたらどうしようとはもう思わなかった。
焦点が定まらない。
はっ、は、とわたしだけが荒くなっていく息。
じわりとぼやけていく視界で、彼の姿も滲んでいく。
あれだけ世界が灰色でも依然としてそこに存在していた金色の髪が、いまはこんなにも歪んでいく。
それでもルーカスくんは落ち着いていた。
不思議なくらいに、その声色はおだやかだった。
「────恋をした相手だから」