ブルー・ロマン・アイロニー
わたしはルーカスくんの声を一言も聞き逃さないように、顔を近づけた。
むき出しになったボディにわたしの涙が染みこんでいく。
「言ったろ。俺は濡れるのが嫌いなんだ」
あたたかい手がわたしの頬に触れた。
「……泣くなよ。なあ、泣かないでくれ」
その手が、後頭部に移動した。
最後の力で、ぐい、と引き寄せるようにされて。
柔らかい唇がわたしの唇に重なった。
アラーム音がどんどん大きくなっていく。
「最後に見るのはあんたの笑顔がいい」
わたしは首を横にふった。
笑えるわけないと思った。実際にわたしの頬は一ミリも上がらなかった。
それでも、思い出してしまったんだ。
わたしが最後に見たお父さんとお母さんの顔が、笑顔じゃなかったことを。疲れ切った顔しか思い出せないことを。
そんな思いを、ルーカスくんにもさせてしまうの?
……できない。
そんなの、できるわけない。
「……"びっくりした"」
きっと不格好な笑顔だったと思う。
涙が止まらないまま無理やり作った笑顔は、それでもルーカスくんの心に届いたみたい。
笑ったのだ。初めて。
ルーカスくんが、笑ってくれたんだ。
「恋をする相手があんたでよかった。俺は──ツイてるよ」
────ほんと、とことんツイてないというか、いつも間違えてばかりだなわたし……。
いつの日か、教室でうっかりルーカスくんに洩らしてしまった言葉。
それをずっと覚えていてくれたんだ。
覚えていて、こうして、わたしに言ってくれた。