ブルー・ロマン・アイロニー
そうして数時間後、目的地についた。
さすがのノアもこのときばかりはテンションが上がったのか、駅から降り立った瞬間、駆けていった。
こちらを振りかえって、子供のように目をキラキラとさせて笑う。
「おい見ろよあまり!海だぜ、海!」
「なんで海でそんなに興奮できるの……?」
わたしは呆れたように笑いながらも、ノアが喜んでいることに安心した。
ルーカスくんの件があってから、わたしも、そしてノアも笑わなくなった。
しんどくたって、こうして笑うことができていた。
たったそれだけのことがまるで奇跡のように感じる。
────海が見てみたい。
そう言われたときは、そんなところでいいの?って思ったけれど。
来て、よかったと思う。
潮の香りが風に乗って、防波堤の上にいたわたしたちを包みこむ。
「降りてみようか」
深く深呼吸をしてから、わたしはそう提案したのだった。