ブルー・ロマン・アイロニー
真っ青な空と海を遮るものはなにもない。
どこまでも続く地平線を見ていると、つう、と一筋の雫が頬を伝った。
「……きれいだね」
「そうだな」
ほんとうに、きれいだと思った。
いま流しているこの涙の理由を、わたしは考えなかった。
景色を、世界をきれいだと思えるようになっていたこと。
人間のこと、アンドロイドのこと。
わたしの大切な人たちのこと。
海を見ながら、いろいろなことを思った。
余計なことは考えずに、ただそれらだけを想った。
「よし」
ノアがそう言ってわたしの腰に触れた。
「え?」
ひょいと、いとも容易く持ちあげられる。
「よっ、と」
「え?ちょっと、なにして──」
「よーしあまり、いくぞ!」
「ちょ、え、……まさか、やめっ、やめ……!」
どっせーい!とわたしは宙に放り投げられた。
青い空を飛んでいく鳥のように、たしかに一瞬わたしも空を飛んだ。
ほんとに、一瞬。
────ばっしゃぁぁぁん!!