ブルー・ロマン・アイロニー
彼らが無理やり玄関に入ってこようとしたから、わたしはあわててその前に立ちはだかった。
「待ってください!一体なんなんですか。サトリって、なんの──」
「俺の個体識別名だよ」
わたしはノアのほうを見る。
「……記憶、戻ったの?いつから?」
ううん、聞くまでもない。
最近よくノアが考えこんでいたのは、記憶を取り戻したからだったんだ。
「こちらへ来るんだ、サトリ」
「ちょっ、と!っ、行かなくていい……っ行かないで、ノア!」
わたしの命令は命令じゃないんだ、ってノアは言っていたよね。
だからわたしは、めいいっぱい、命令をしたつもりだった。
それなのにノアは、こちらに向かってくる。
命じられたことに従うようにすんなりと。
「なんで、ノア……なんで、いつもわたしの言うこと聞いてくれないの……?」
ふ、と思わずといったような失笑が聞こえてくる。
きっと振りかえったわたしに、若い男が「失礼」と肩をすくめた。
初老の男がわたしに説明をする。
「知らなくて当然だ。これは公表していないことなんだけどね、実験用のアンドロイドにはマスター登録機能は付けないんだよ。だから、サトリはきみの命令を聞かなかった。もちろん我々研究員の命令には従うようにプログラムしてあるがな」