ブルー・ロマン・アイロニー
Blue Roman Irony
手を引くのはいつだってノアだった。
後ろからついていくのはいつだってわたしだった。
わたしはそのたびに呆れた顔をしていたけれど、本当はずっとうらやましく思っていたんだ。
何にでも興味を持つノアに。
おいしそうに食べるノアに。
夜になったら眠れるノアに。
誰よりも人間くさいノアに。
そんなノアの手を、わたしが引いて走る日が来るなんて。
「はっ……はあっ……!」
息があがって、弾む。
それはどんどん弱くなっていく。
勢いをなくした鞠のように。
あっと思ったときには足がもつれて、わたしたちは地面に倒れこんだ。
「ぃ、っ……!」
急いで立ちあがろうとしたけれど、足をくじいたのか、起き上がるだけで精一杯だった。
わたしたちは河川敷の近くまで来ていた。
初めてノアと出会った場所。わたしを、ノアに出逢わせてくれた場所。
だからこそ、ここで終わらせたくはなかった。